摩天楼の魂を描くー建築家ヒュー・フェリス

建築家ヒュー・フェリスのプリントを商品に追加しましたので、フェリスの作品と時代背景についてふれたいと思います。

Hugh Ferriss, 1889 – 1962

ヒュー・フェリス(Hugh Ferriss, 1889年- 1962年)はアメリカ、ミズーリ州セントルイスに生まれ、同州ワシントン大学で建築家としての教育を受けました。フェリスは早くから自身の設計よりも他の建築家のためにレンダリングを行うことに特化していった人物です。レンダリングとは建築物や都市計画などの完成予想図のことで、この図は計画過程に用いられる他、計画の宣伝としても用いられます。1912年にフェリスはニューヨークに移り住み、建築家キャス・ギルバートの専属レンダラーとして雇用されました。ここでフェリスはニューヨークのシンボルとして知られる、ギルバート設計のウールワースビルのレンダリングを作成しています。1915年、フェリスはレンダラーとして独立事務所を構えました。1920年ごろまでには、特有の幻想的なスタイルを確立し、彼の作品は多くの出版物に掲載され、高い評価を得ました。

Left: Hugh Ferriss Woolworth Building, Right: Woolworth Building 1911-1913

摩天楼と聞いてまず思い浮かべるのはニューヨークのエンパイアステートビル、クライスラービル、ワルドーフアストリアビルなどでしょうか。どれも20世紀初頭から30年代にかけて建てられた建築物です。ヒュー・フェリスが実際に建設した作品はひとつとして知られていないのですが、彼のパースペクティブ作品は同時代の多くの建築家を感化しました。その影響は建築界だけにとどまらず、バットマンの舞台であるゴッサム・シティなどのポップ・カルチャーにおける都市の描写にも及びました。

Left: Empire State Building 1930-31, Middle: Waldorf Astoria Hotel 1929-1931, Left: Chrysler Building 1928-1930

コミック、バットマンの舞台ゴッサム・シティ, Gotham City by Anton Furst reposted from http://lifewithoutbuildings.net

フェリスの作品の全容とニューヨークという大都市の姿を決定的に形成する、ある出来事がありました。それは1916年にニューヨークで新しく制定された建築基準法です。この建築基準法、すなわちゾーニング法は、斜線制限といって建物のある一定の高さより上はデザインを角錐状の中に収めなくてはいけないというものです。つまり箱型の設計はNGで、建物がある一定の高さを超えると、箱の形態に変化をつけなければいけないのです。ある地角を最大限利用するために、ただただまっすぐに高層ビルを建てて、地上の陽当たりと街の風景などを悪くすることを避けるためにこのルールが考案されたようです。先に述べたニューヨークの顔でもあるエンパイアステートビル、クライスラービル、ワルドーフアストリアビルや、同時代に建てられた高層ビルが階段状になっていたり、最上階が塔のように細くなっているのは、この法案のためだったのです。このように斜線制限を用いた建築物は一般的にセットバックと呼ばれています。セットバックとは、路面からセットバック(後ろに引いた)という意味です。この法案が解禁になるまでの実に45年もの間ニューヨークの都市の姿を形成したのが、数々のセットバックなのです。

1916年以前の建物- Left: Equitable Building 1915, Middle: American Surety Company 1895, Right: American Telephone and Telegraph Building 1912

セットバックの例- Left: The Paramount Building 1926-1927, Middle: New Yorker Hotel 1930, Left: Daily News Building 1929-1930

New York City Skyline 1932

1916年にこのゾーニング法ができた時、建築家達はこの規制が設計デザインに実際どのように適用されるのか理解に苦しみました。そこで1922年に高層建築家ハーヴェイ・ウィリー・コーベットは、この規制を適用した建築物の形状を、四段階に分けて表現するよう、当時すでにレンダラーとして知名度の高かったフェリスに依頼しました。フェリスは1929年に「明日のメトロポリス」(“Metropolis of Tomorrow”)という題で本を出版しました。この著にはコーベットの依頼の4つのレンダリングを含む49枚の作品と、現代と未来の都市のあり方など、彼の建築と都市計画に対する哲学がエッセイとして収録されています。今回ドーソン・リントンがご提供する3枚のドローイングはまさにこの「明日のメトロポリス」から摘出したものなのです。ちなみに私はこの作品をロサアンジェルスのアンティーク市で古い印刷物ばかりを扱う実にマニアックなオランダ人から買い取りました。

The Four Stages by Hugh Ferriss

The Four Stages by Hugh Ferriss

建築基準法云々は抜きにしても、フェリスの真の魅力はやはりその美しいレンダリングスタイルにあると思います。黒のコンテ一本で彼が描いた未来都市図は幻想的でロマンチックで、同時にマスキュリンで力強い。フェリスは人がどんなものに圧倒されどんなものに心を動かされるのか熟知していたのでしょう。

私は美大で建築史のコースを1期とっただけで、そのわずかな知識もほとんど蓄積されなかったので、今回のブログのために文献をあさりました。大学の授業の内容はほとんど忘れてしまいましたが、それでも20世紀前半の建築スライドを見ながら、現代に突入した世界に同時多発的に建築のあり方を前進させた、その時代を包んだであろう情熱と鼓動をひしひしと感じ心を打たれた記憶があります。(良い教授に恵まれたんですね)フェリスはニューヨークが大都市として開花した 新しい時代を生き、その真っただ中で黒のコンテだけで紙の上に未来の都市の形を築き上げていった人物だったのです。

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